ハイブリッド債をなぜ発行するのか…格付対策

金融ニュース

日本たばこ産業(JT)がユーロ建て劣後債10億を発行予定。
事業会社が劣後債を発行する理由って何か?
プレスリリースでは、「財務健全性」、「資本効率性の向上」が目的。結局は格付機関対策。
資本性評価でS&P、Moody’s、R&Iのそれぞれのものが記載。これでどれくらい格付上のインパクトが得られるのかまではプレスリリースでは記載はないが、期限前償還条項の中身が見えれば分かる。

じゃあ、なぜこのタイミングなのか?
想像される理由(1)半期が終わって、格付機関のレビューで格付維持が厳しそうな雰囲気が出たから、(2)世界的に見てしばらくは低金利継続で調達コストが低いから(クレジットスプレッドもタイト)、(3)ESG、SDGsが投資家側で意識されるので今後の調達が厳しくなると想像しているから、というところだろう。
金融機関関係者なら容易に想像つくところでしょう。

今回の発行がJTにどうインパクト出るのか、投資家としてはどうインパクトが出るのか。
・JTは、株式よりも調達コストは安い。格付機関は評価として資本性を認める。結果として、格付が維持される。→格下げになって調達コスト(ローン、社債)が上がるリスクを回避できる。
もし格下げになると、どうなるのか。。。
現在の調達コストが、将来の借入時に一気に上昇する可能性が高い。そもそもローンが借り換えできるかさえ不透明かも。社債であれば、スプレッドを払えば最悪調達できるけど、どこにいくのか相場次第という運任せに近い。
・投資家は、シングルA格付の社債投資の機会を得る。とはいえ、劣後債なのでJTのビジネスがダメになると回収率は期待できず。ユーロ建てなのでユーロ通貨を持っていない投資家は調達コストがかかるけど、超低金利の中では投資機会としての利回りも低いが、調達コストも低い。株式へのインパクトは基本的にはポジティブに出て良いはず。

10億ユーロはどの程度の格付上のインパクトがあるのだろう。為替で円換算すると1,200億円くらいにはなる。
そのうち、仮に30%認められるなら400億円、50%認められるなら600億円。資本金1,000億円、純資産の部2.6兆円強。長期の負債が7,000億円弱。ぱっと見では、結構な資金があるように見えるけど、短期の負債が3,800億円程度あるので、そこの借り換えのコストが厳しいとは思えないので、やっぱり長期負債への対応か。
なお、この辺の議論は、格付会社のレポートと商品性を見れば分かるはず。商品性をしっかり見れば、JTがどこの格付機関を対象に動いているのかも分かる。

ESG、SGDsの観点では?
機関投資家の投資方針にESG、SDGsは確実に入って来ている。今は、まだちらほらみる程度で、取り入れるとニュースになるほどの扱い。ただ、この流れは止まらないし、世の中の常識になるはず。個人投資家でも同じ意識が生まれるのも必然。
たばこ産業は、もう何十年も前から健康被害での訴訟の潜在的リスクの話があるけど、いまだ潜在的なまま。仮に顕在化すると本業そのものに甚大な悪影響が出るのは当たり前。
そうではなくて、本業を維持するための資金繰りを提供する金融機関がESG、SDGsの観点で資金を出さなくなると潜在的リスクの前に本業が資金フローで回らなくなるということがあり得る。
JT自体は、たばこ以外のセクターも探っているようだけど、やっぱりたばこ産業の収益の大きさは別格。他のセクターを育てるための時間と資金を確保したと考えることもできるのか…

仕事でいろいろな案件に関係してきたので、なまじ知識があるので色々と気になる点はあるけど、全部調べているとキリがなさそう。投資銀行系の人は調べているのでしょう。


 

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